予防と健康管理ブロック

.はじめに

    今回予防・健康ブロックの講義の一環としアスベストに関するビデオをみた。そして論文を調べ、レポートを書くことに私は大きな意義があると感じる。なぜなら今まで私がいかにこの問題に無知で関心がなかったかを知ることができたからだ。これから医師となる私にとってこの問題は真剣に考えるべき問題であり、このような過ちは2度と繰り返してはいけないと思う。これを通して少しでも被害者の方の痛みを理解することができたら幸いである。

 

2.選んだキーワード

アスベストと関連のあるキーワードとして私は「アスベスト」と「環境問題」を選んだ。これらのキーワードを選んだ理由は、アスベストを原因とする中皮腫が問題となっていることは知っていたが、なぜアスベストという物質が体内に取り込まれてしまったのか。その要因の大部分が環境にあると考えたからである。

 

3.論文概略

  @「アスベスト問題の社会的背景」

まず社会的背景としてはILO1986年にアスベストの安全利用に関して討議が行われ、安全に関する条約および勧告が採択された。しかし、日本では、批准までに実に20年近くかかって、ようやく平成17年(2005)の国会においてアスベスト条約の批准が承認されたのである。なぜ1986年に批准されなかったのか。これは、アスベストと中皮腫が単に医学的問題であるだけでなく、社会的問題であるということ示している。

2005年、日本でアスベストについて非常に大きな社会問題が起きた。それは、大手機会メーカー『クボタ』がアスベストを材料とするパイプや住宅宅建材の製造工場で働いていた社員や退職者、請負会社従業員の間でがんの一種『中皮腫』などアスベストが原因とみられる疾病の患者が多数いるということだった。こうしてアスベストと中皮腫は社会的問題としてマスメディアで大きく取り上げられるようになったのである。しかし、実際はこの問題は報道される以前から、医学的、環境衛生学的には知られていたことであり、行政も対応準備を進めていたことであった。そしてこの年『石綿障害予防規則』が公布されたのである。

アスベスト問題はわが国だけで起きている問題ではないが、対応と体制が異なっているために、わが国にアスベスト問題は第二の水俣病、あるいはエイズ事件の再来とまでいわれている問題なのである。

次に歴史的背景をみてみると、わが国ではアスベストはほとんど国内生産がない為に、輸入に依存してきた。1960年代にはアスベストの輸入量は急激に増加し、1990年頃まで毎年25トン以上であった。輸入拡大の背景として高度経済成長期(19701980年代)に多くの建造物が作られたことが挙げられる。1975年には、特定化学物質等障害予防規則が改正されて、吹き付けアスベストは原則禁止となった。しかし、その後もアスベスト含羞物質の吹きつけは続けられた。一方、アメリカではアスベストの危険性を知りながら、無視して製造を続け、労働者や消費者の健康を危険にさらしたことにより、アスベスト会社に高額の懲罰的賠償が命じられるという事件が起きた。わが国では、文部省がアスベスト除去のなどの対策の為補助金が増額されたにもかかわらず、『石綿製品の規制に関する法律案』は自民党の反対により審議をしないまま廃案となった。ここでも日本の世界との差を感じる。そして1995年には、阪神淡路大震災により倒壊した建物の解体工事などの復旧工事によって飛散したアスベストが大気汚染を起こし、大きな社会的問題となったのである。

アスベストという物質自体は新しくないが、わが国では高度経済成長期の建設ラッシュの中で安価で極めて便利な建築材料として多用されたことが現在の大きな問題となっている源なのである。アスベストは現在は製造、使用は禁止されているが、これまで使用されてきたアスベストの飛散や石綿製品修理にかかわる作業者の暴露、地震時の倒壊家屋からの飛散が問題となっている。またアスベストの使用に伴うさまざまなリスクは何度も指摘されてきたが非常に便利であったために規制は先延ばしにされてきたということも問題となっている要因である。

このようにアスベスト問題取り上げられるようになってきたが、アスベスト問題は健康問題だけでないことに注意する必要がある。というのは、健康影響に関しては通常、厚生労働省が対応すれば済むことが多いが、今回は多くの省庁、とくに経済産業省や環境省が深い関わりを持っているからである。また、中皮腫の発症までに10年〜20年の潜伏期間があるということは、医学的にも対応が難しいことを示している。

以上のように、アスベストに起因する中皮腫は戦後における効率優先の経済開発によって生じた問題と位置づけることができる。私たちは医学的問題の背景にある社会的、歴史的背景を重視して問題を考える必要があるのだ。

 

 A『アスベストとは?〜あなたの周りにあるアスベスト〜』 

     石綿は繊維状を呈する鉱物資源であり、扱いやすく安価であることから、 世界中で優秀な工業素材として使われてきた。わが国では石綿はほとんど輸入に頼っており、1960年〜1970年代の高度経済成長期に建築材料として多用されたため、輸入量はピークに達した。その使用範囲は実に広く学校などの大きな建物はもちろんのこと、水道管、煙突などさまざまな私たちに周りのものに使われていた。しかし、その頃には石綿工場で働く人の間で、肺がんや中皮腫が多く発生することが知られていた。実際にこれらの患者の肺から多くのアスベストが検出されることから、国際労働機関(ILO)では1972年にアスベストを発がん物質として認定した。日本を除く諸外国ではこれをきっかけに急激に使用が減少したが、わが国では石綿の使用を禁止するという検討はなされたものの、適当な代替品がなかったために先延ばしにされたのである。そして、石綿の製造が完全に中止されたのは2004年。世界に比べて実に30年以上の差があったのである。アスベスト暴露による中皮腫や肺がんの発生には30年の潜伏期間があるといわれている。だから患者はこれからも増加を続けていくだろう。

    増え続ける中皮腫の患者が必ずしもアスベストが原因であるとは言えないので、冷静な対応が必要である。

 

4.考察

人間はどうして利益だけに目を向けてしまうのだろう。アスベストは安価で非常に扱いやすいものであった。しかし、一方でアスベストは中皮腫や肺がんを起こすと古くから言われていたのである。

アスベストは1972年に発がん性が国際的に認められた。しかし世界と比べてわが国はアスベスト対策に関する規定が制定されるのが、アスベストに代わる適当な代替物質がなかったため、20年近く遅かった。この20年がなかったら今のアスベスト問題は軽減されていただろう。アスベストは人体に有害だと知りながらも使用を認めてきた国、そして建築会社などの責任は計り知れない。

そして今問題となっていることは、2030年前に建てられた建物が地震によって倒壊したとき、あるいは解体工事のときにアスベストが飛散し大気汚染を起こしているということである。アスベストが製造、使用禁止になったからといって問題が解決されたというわけではないのである。

私は兵庫県出身であの阪神淡路大震災を実際に体験した。非常に多くの建物が倒壊し、私自身の家も全壊した。今も鮮明に覚えているが、地震後しばらくは空気が濁っていた。あれがもしアスベストだったら…。本当に恐ろしいことである。今もそのままになっているアスベストが使用された建築物は数多くあるだろう。その建築物をどうしていくのかがこれからの課題である。

今後中皮腫を発症する患者数はピークに達する。医師としてはその中皮腫の原因を突き止めるということが、被害を軽減につながってくると考える。ただ潜伏期間が長いので記憶も薄れており、適当な原因を突き止めるのは困難なことかも知れない。しかし地道な努力によって、原因が少しでもわかってこれば、これからの被害を抑えることができると私は考える。これが予防医学というものではないだろうか。また、アスベストによる中皮腫と診断され、その原因がわからないよりは、原因を突き止めた方が患者の気持ちとしても少し楽になるのではないだろうか。

まだまだ解決されないアスベスト問題。現在は国を相手取った訴訟が多く行われている。国は過去の過ちを認め、遺族や患者に対して誠意を持って対応していくべきである。また川崎医科大学では「アスベスト関連疾患への総括的取り組み」として症例登録と,それを基盤とした臨床試験の実施によって治癒率向上を目指すこと。また,基礎研究から,将来の治癒率向上を目指した早期診断指標の確立と,治療と予防の新展開に向けた標的分子の同定の努めることを,プロジェクトの中心としてやっていくということで、ますますアスベスト対策が確立していくだろう。

今後、まだまだ公害といわれるものが出てくる可能性がある。もしそのような事態になった時は、早急な対応が望まれる。私たちは便利な生活を目的としても、決して環境汚染を起こしてはいけないということを忘れてはいけないのである。

 

5.まとめ

     現在、わが国だけでなく、世界的にみてもアスベストに限らず環境問題が話題となっている。地球温暖化、異常気象などは私たちの生活が便利になった代償として起きているのである。石油の量も少なくなり、石油に代わる新しい資源が必要になってくるが、より環境に優しいものが望まれる。私たちは、これからは環境に優しく、そして人体にとっても影響のない便利なものを開発していかなければいけない。ただ便利とか安価であるという理由での人体への影響を無視した乱用は避けなければならない。

      私たちの生活する地球。限りある資源を大切にし、環境を維持するためには、全世界で協力して対策をたて、私たち一人一人が意識してエコ活動を行う以外道はない。